Novel
父の死
父の伸ばした手とともに、大聖堂の静寂が破られる。

結界の儀が終わって、しばらくその場で立っていた。
光が消えた大聖堂は、さっきより少しだけ暗く見えた。でも気のせいかもしれない。
胸の中はからっぽに感じた。魔法が抜けた場所に、何も入ってこないような感じというか。
でも、終わった。
大役のひとつが、終わった。
玉座に戻って、次は国民の前での挨拶。そのあと、各国代表との饗宴の儀。それさえ終われば、今日は終わる。
……長い一日だな。
次は、近親者の祝言だった。
式次第で確認していた。大法官の祝言が国家の代表としてのものなら、こちらはもっと個人的な——家族として、女帝に言葉を贈る場だ。近親の筆頭が歩み寄り、手を取る。
誰が来るのかはわかっていた。
母はいない。ソフィアはまだ七歳だ。だから、父が来る。
……どんな顔をすればいいんだろう。
式の中でそれだけが、練習してもうまくイメージできなかった。
階段の方から、人が歩いてくるのが見えた。
父だった。
カエサル。母カタリナの寵臣。私のお父さん。
会うのはいつぶりだろう。女帝になってから、父は元いた家に戻ってしまった。母が亡くなったあとの慌ただしさの中では、きちんと話す時間もなかった。
近づいてくる。礼装が似合っていた。背が高く、髪の色は私と同じだ。
目が、こちらを見ていた。
笑っている、気がした。
誇りに思っている、みたいな顔だった。うまく読めなかったけど、たぶん、そんな感じだった。
手が、伸びてきた。
私の手を、取ろうとした。
——その瞬間。
血だった。
鮮やかで、どうしてこんな色なんだろうと思うくらい、鮮やかだった。
白いドレスに、かかった。
そして父が、崩れた。
大聖堂の中で、何かが割れるような音がした。違う、誰かが叫んだのだ。ひとつじゃない。あちこちから声が上がって、さっきまでの静寂がどこかへ消えた。
私は、そこに立っていた。
何が起きたのかわからなかった。
わからない、という言葉も正確じゃない気がする。
見えていた。全部、見えていた。ただ、それが何なのか——
お父さん……
なんで……?
心の中で、そう呼んだ。
そのあとのことは、何も覚えていない。