Novel
なぜ女帝に?
なぜ自分が選ばれたのか。その答えを、廊下でたどる。

大聖堂の中廊下は、長かった。
玉座まで続く石畳の上を、大法官の後に続いて歩く。両脇には赤い布で仕切られた区画が設けられていて、その向こうに、各国の代表団や帝国の要人たちが居並んでいた。
全員が、こちらを見ている。
……見るな。
じろじろとこちらを観察する目、目、目。
外交辞令を塗り固めたような表情をした外国の代表たち。
帝国のお偉方。
知らない顔ばかり。
そりゃそうだ。私だって知らないんだから。
なんで、ここにいるんだろう。
答えは簡単だ。母カタリナの遺言書に、私の名前が書いてあったから。
母が亡くなったのは三か月前。即位してから二十年以上、この帝国の君主二十六代女帝カタリナ・ロマーリアーナが、病でこの世を去った。残されたのは、手書きの遺言書と、あまりにも不意打ちな次の名前。
ヨハンナ・ロマーリアーナ。
つまり私。
正直、なんで?と思った。
とはいえ、遺言書があるから即座に決まるというわけでもない、らしい。
宮府の人が何時間もかけて説明してくれたけど、難しい言葉ばかりで正直よくわからなかった。
一番覚えているのは、一応覆せる条件があるということだ。「明確な違法性」か「統治不能性」が証明できれば、護国卿が遺言書の内容を退けられる――とか何とか。
それを聞いたとき、正直ちょっと期待した。
十四歳、帝王学未修了、寵臣の子、国民もよく知らない皇族――統治不能くらい言えないものかと。
言えなかったらしい。
遺言書は、有効だった。
……みんな、あの子がなると思っていたのに。
ソフィア。
七歳の妹。母と正式な夫である皇配との間に生まれた、正真正銘の皇女。ほとんど会ったことはないけれど、伝え聞く評判はすこぶる良い。賢い、かわいい、物怖じしない。帝王学もばっちり受けている。私と違って。
私の父であるカエサルは寵臣だ。母の正式な夫ではない。だから私はそもそも、女帝になるなんて想定された側にいなかった。一般的な貴族の家庭教師が来て、一般的な教養を身につけて、どこかの貴族のところに嫁いで――そういう人生を送るものだと思っていたし、それで良いとも思っていた。
ソフィアが継ぐ。そう思っていたのは、きっと私だけじゃない。宮廷のほぼ全員がそう思っていたし、国民もそう思っていたはずだ。
なのに。
遺言書が出てきた。
そこには私の名前が入っていた。
で、護国卿は違法性も統治不能性も認定せず、遺言書を執行した。
理由は……なんとなくは聞いた。ソフィアが即位した場合、七歳では摂政が必要になる。摂政には皇配の父である大公クラウディウスがなる可能性が高く、そうなれば政治も宮廷も一家に集中してしまう。母が丹念に積み上げてきた改革が崩れる危険があった。それを嫌がった人間が、遺言書執行に乗った――ということらしい。
要は、大人の事情らしい。
その大人の事情に付き合わされているからこそ、いま私はここにいる。
……要するに、奴がすべて悪い。
中廊下の向かって左側、帝国要人の区画に視線を走らせる。年配の男性や女性が多い中、ひとりだけ明らかに若すぎる男が立っている。周囲と不釣り合いなのは、その若さだけだった。
あれが、カロルス・マルケッルス護国卿。
二十歳。私より六つ上なだけ。
それなのに周囲のお偉方と並んでも場慣れしていない様子はない。むしろ、ひときわ目を引いた。整った顔立ち。背が高く、礼装が似合っている。何より、視線が静かだ。この場の誰よりも若いのに、どこか一番落ち着いているように見えた。
しかも、貴族の令嬢から市井の娘まで、女性人気も高いらしい。
……なんか、腹立つな。
私は無表情を保ちながら、そちらに三秒だけ視線を固定した。
見られたのがわかったのか、護国卿がかすかに目を細めた。軽く頭を下げてくる。
私は前を向いた。
表情は変えない。ただ胸の中だけで、舌を出しておく。