Novel

帝冠の儀と祝言の儀

重すぎる帝冠を受け、ヨハンナは祝言の儀へ向かう。

帝冠を戴き、重さをこらえるヨハンナ

次の段取りが始まった。

大法官が前に進み出て、うやうやしく一礼した。白手袋をはめた侍従が、深紅のクッションの上に乗せたものを両手で捧げてくる。帝冠だった。

金と白銀を組み合わせた、小さな頭に乗るとは思えない代物。八方に伸びた尖端にそれぞれ宝石がはめ込まれていて、ステンドグラスの光を受けてきらきらと輝いている。美術品みたいだ、と思った。
博物館で見たことがあるやつ。

それが、私の頭に乗るらしい。

大法官が近づいてくる。私は背筋を伸ばしたまま、言われたとおりに少しだけ頭を下げた。

重かった。
想像の三倍は重い。

頭の上にこれを乗せて平静を保てと言われても。体が傾きそうになるのをこらえながら、私はゆっくりと顔を上げた。首が笑っている。笑っているというのは、震えているという意味だ。ぶれないように、ただまっすぐ前を見る。

これが帝冠か。

……重い。
ここで落としたら笑えないよね。
落とさないようにしないと……
しかも式にも集中しないといけない。

帝冠と戦っているあいだに、祝言の儀が始まった。

大法官がふたたび前に出て、式次第を手に持ち、声を張った。朗々と、よく通る声だった。帝国の由来と女帝の使命と繁栄への祈願を、格調ある言葉で連ねていく。

聞いていると、途中で一瞬、何かが混じった気がした。

「——帝国基本法典第……」

……今、条文って言った?

お祝いの言葉に、条文が入るの?

そっと横目で後方に視線を走らせた。護国卿カロルスが、要人席の端に立っていた。表情は変わっていない。特に反応もしていない。

……慣れてるのか。

聞き間違いかもしれない。でも、あの出だしは聞いたことがある。帝王学の予習で出てきたやつだ。

大法官の声は続いている。次第に、私も気になることがあった。

式次第を持つ手が、気づかなければ気づかないくらい、かすかに揺れていた。

声は揺れていないし、視線もぶれていない。それでも、手だけが少しだけ正直だった。

練習したんだろうな。

何度も、何十回も。声の出し方から間の取り方まで、鏡の前でひとりで繰り返したりしたんだろうか。それでも今日、この場で、手が揺れている。

……私も、練習した。

玉座への昇り方、礼の角度、歩く速さ。即位が決まってからの一か月、眠る前に毎日繰り返した。こっちは本番が今日が初めてだし、一生に一度のはずだし。

手、震えてないといいけど。
頭も重さで揺れてないよね?

こっそり手を確認しようとして、玉座の上では手元が見えないことに気づいた。

まあいいか。見えないなら、見られてもいない。

大法官の声が続いている。